豊田司法書士事務所ブログ

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相続登記義務化と負担軽減措置

2023.02.17

こんにちは。司法書士の岡崎です。

令和6年4月1日より、相続登記が義務化されることになります。

相続登記の義務化については過去に記事にさせていただきましたので、下記をご参照ください!

https://office-toyota.com/blog/2022/07/22/souzoku-touki-gimuka/

相続登記義務化により、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければ」ならず、義務に反すると、10万円以下の過料の制裁が処されることがあります。

しかし、遺産分割協議が難航している場合や遺言の有効性に争いがある場合など、3年以内に相続登記ができないケースも少なくありません。

そこで、相続登記申請義務の負担軽減のため、「相続人である旨の申出」制度が新設されました。

今回の記事では相続人である旨の申出制度について解説しようと思います。


1.相続人である旨の申出制度(相続人申告登記制度)とは

制度の開始は、相続登記の義務化と同じく、令和6年4月1日からとなります。

相続人である旨の申出制度とは、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を登記官に申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす制度です(新不動産登記法第76条の3参照)。

申出を受けた登記官は、職権で、申出をした相続人の氏名・住所などを登記簿に記録することになります。

これにより、相続登記申請義務を負う者は一時的に義務を免れることになります。

また、共同相続人のうちの一部の者が申出をした場合には、申出の効果はその相続人のみに及び、申出をしなかった他の相続人には及びません。

なお、共同相続人のうちの一人が他の共同相続人からの委任を受けて、全員分について相続人である旨の申出をすることも可能です。



2.相続人である旨の申出による付記登記が行われた後

登記官は、相続人である旨の申出があったときは、職権で、相続人である旨の申出があった旨や申出をした相続人の氏名・住所などを所有権の登記に付記することができます(新不動産登記法第76条の3第3項参照)。

注意しなければならないのは、この付記登記は、あくまで予備的になされる登記にすぎないということです。

所有権の登記名義人に相続が発生したこと及び申出人の氏名・住所などを報告的に公示するものであり、付記登記をしただけでは、所有権を取得したことを他者に主張することはできません。

相続人への所有権の移転持分割合については公示されません。

したがって、相続人である旨の申出をした者が、その後の遺産分割により所有権を取得したときは、原則として、遺産分割の日から3年以内に、所有権移転の登記を申請しなければならないとされています(新不動産登記法第76条の3第4項参照)。

この登記義務を怠ると、10万円以下の過料に処されることになります。

相続登記義務化は、所有者不明土地問題を解決するための制度ですが、所有者不明土地問題は、登記簿が最新のものにアップデートされないために生じる問題です。

相続人である旨の申出による付記登記は、予備的になされる登記であり公示として不十分であるのにもかかわらず、付記登記のまま放置されてしまうと、登記簿はアップデートされないままとなってしまいます。

よって、相続人である旨の申出後にも、このような義務・ペナルティが課されています。



3.法定相続分での登記と相続人である旨の申出の比較

(1)法定相続分での登記

現行法の下でも、相続発生後に遺産分割協議がなくても、法定相続分の割合(各相続人の取り分として法律上定められた割合)で相続登記を申請すれば、相続登記申請の義務を果たすことが可能です。

この「法定」という言葉は、必ず従わなければならないという意味ではなく、法律で一定の基準を定めておくという意味であり、当事者間の遺産分割協議で自由に変更できます。

法定相続分での登記は、相続人全員が申請人となって行うことが必要ですが、保存行為として、相続人のうちの1人が他の相続人の同意なく全員のために手続することも可能です。

このことから、相続登記義務を免れるために、相続人のうちの1人がとりあえず法定相続分での登記をすれば良いと思われるかもしれませんが、以下の理由から、おすすめはできないと考えています。

① 戸籍謄本等の収集の負担

法定相続分での登記は、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が必要となるため、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等の収集が必要となります。

この戸籍収集作業が思いのほか大変であり、事案によっては大量の戸籍を集めなければならず、手続的な負担は大きいと言えます。

② 登記費用の負担

法定相続分での登記は、通常、不動産の評価額の1000分の4の登録免許税という税金がかかります。

また、司法書士に依頼する場合には、別途、依頼料がかかります。

後に遺産分割協議をする予定にもかかわらず、とりあえず法定相続分による登記をすることは、無用な手間・出費を負担になると考えられます。

なお、後に遺産分割協議が成立し、遺産分割結果通りに登記を申請する際にも上記費用はかかってきます。


他にも、相続人のうちの1人が法定相続分で登記をすることにより、他の相続人に登記識別情報通知(いわゆる権利証)が通知されない、共有状態になったことにより共有者全員の同意がなければ不動産を処分できないなどといった問題が生じ、トラブルになる可能性があります。

(2)相続人である旨の申出

相続人である旨の申出制度は、「申請」ではなく「申出」という方式が採用されており、登記申請よりも当事者にとって簡易・柔軟な手続となると考えられます。

必要な資料としては、登記名義人と申出人との相続関係を証明しうる戸籍謄抄本等を提供すれば足ります。

例えば、父親が死亡した場合にその子が申出をする場合であれば、手続に必要な資料は、現在の戸籍謄本1通のみで足りることとなります。

なお、手数料がどうなるのかについて、現時点では未定となっていますが、私見として、当事者にとって簡易・柔軟な手続にするという制度趣旨からそこまで高額にはならない、もしくは無料になるのではないかと考えています。



4.まとめ

今回の記事では、相続登記申請義務の負担軽減策としての相続人である旨の申出制度について解説しました。

相続登記義務化により登記申請義務を怠ると過料のペナルティを課されますが、ペナルティを避けるためにと、とりあえず法定相続分での登記をしようとするとデメリットがあることには注意しなければなりません。

まだ、施行される前の制度なので、どのように運用されるのかなど分からないところも多いですが、新情報が入ればまたご紹介したいと思います!

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